トップページ > 目次 > 人類と環境

「ロックで学ぶ現代社会」rock meets education

第1部 『現代社会における人間と文化』〜現代社会をめぐる諸問題

著者イメージ

環境とわたしたちの生活

第8章 人類と環境

*大 坂 「今日から『環境問題』について考えていこう。」

*B 君 「環境問題というと,今とってもトレンディなテーマですね。」

*Aさん 「地球温暖化とか,酸性雨とか,オゾン層の破壊とか,いろんなことが問題になっていますね。」

*B 君 「でも,ナショナル・トラスト運動とかラムサール条約とか,環境を守るための努力もなされていますね。」

*Aさん 「あら,B君,今日はいやにマジメね。」

*B 君 「いつもと同じですよ!」

*大 坂 「さて,盛り上がっているところで,」

*Aさん 「別に,盛り上がってなんかいません!」

*大 坂 「とにかく,まずこの曲を聴いてください。アルバート=ハモンドの『ダウン・バイ・ザ・リヴァー』っていう曲です。」

DOWN BY THE RIVER    Albert Hammond  1974

*Aさん 「うぁー,楽しくってとってもいい曲ですね。私,好きです,こんな明るい曲。"川のほとりで"って言うのだから,キャンプの歌ですか?」

*B 君 「そうですよ。どうして今回は対訳を配ってくれないんですか?難しくて訳せなかったんですか?」

*大 坂 「ほんとにもう失礼極まりないやつだね。まず曲を聴いて,頭の中にイメージを作ってもらおうとしただけだよ。今の君たちのこの曲に対する感想は,"明るくて楽しい曲"というものだろうね。」

*Aさん 「だって,そうでしょう?先生は違うんですか?」

*大 坂 「では,対訳を見てもらうことにしよう。」

ダウン・バイ・ザ・リバー   アルバート=ハモンド 1974年

 アルバート=ハモンドは,1970年代初め『カリフォルニアの青い空』の大ヒットで一世を風靡したイギリスのシンガー・ソングライター。彼の詞は辛辣な風刺を含むことで知られるが,デビュー曲であるこの『ダウン・バイ・ザ・リバー』も,軽快な曲調とは裏腹に水質汚染の公害問題をストレートに歌った佳曲。

*Aさん 「えー,曲のイメージとは全然違う意味だったんですね。」

*B 君 「へぇ,公害のことを歌った歌だったんですか。これも日本にはあまりないですね。」

*大 坂 「最近では増えてきているみたいだけれど,日本ではこういった社会悪告発のための曲は敬遠される傾向にあるね。たとえば,原子力発電所建設反対を歌った曲がレコード会社の意向で発売中止になったこともあったよ。」

*Aさん 「公害の現状はどうなっているんですか。」

*大 坂 「日本では,戦前のイタイイタイ病あたりから始まって,1950年代の水俣病,60年代の大気汚染などが公害被害の代表的な例だけれど,各方面の努力によって最近は表面に出る被害は少なくなってきたみたいだね。だけど,まだまだ救済を求めている人はたくさんいるし,酸性雨のように最近になって新しくクローズアップされてきた公害もある。」

*B 君 「国は何をしてたんですか。」

*大 坂 「やはり,対応は後手後手に回ったみたいだね。何とかしなければならないという気持ちはあったようだが,何せ当時はいわゆる"高度経済成長"の時代だからね。1967(昭和42)年に「公害対策基本法」が制定されるのだけれど,その第一条には『この法律は国民の健康を保護すると共に,経済の健全な発展との調和を図りつつ,生活環境を保全することを目的とする』となっているんだ。」

*Aさん 「えー,それって『健康は大切だけど,金儲けはもっと大切』っていうことじゃないんですか!」

*大 坂 「まあ,そうとれないこともないね。この法律から『経済の健全な発展との調和を図りつつ』という言葉が削除され,『国民の生命と環境の保全優先』と態度が明らかにされたのは,やっと1970(昭和45)年になってからなんだ。」

*B 君 「ヒドイなー。国や公害企業は何を考えているんだろう!」

*大 坂 「そうは言うけれど,B君。我々は実はただ被害者であるだけじゃなくて,加害者でもあるんだよ。」

*B 君 「えー,だってウチ工場なんて経営していませんよ。」

*大 坂 「だからね…。」

 現代の大量消費社会においては,公害問題においても我々はただ被害者であるとばかり言っていられなくなっている。たとえば,大気汚染を嘆きながら歩いて行ける距離を自動車で移動し,水質汚染に憤りながら平気で食用油や残飯を下水へ流し,原発反対を叫びながらエアコンの効いた部屋で一日中テレビを見ているのである。このように我々は,今や皆"公害加害者"ともなっているのだ。

*Aさん 「ごめんなさい。私たちも悪かったんですね。」

*B 君 「そうだよAさん。君が車に乗るたびに,二酸化炭素が放出されて地球温暖化が進んで行くんだよ。」

*Aさん 「ウルサイわねー!自分だってマンガ雑誌とか買って,森林資源を無駄にしているでしょう!」

*B 君 「僕はちゃんと読み終わったらちり紙交換に出していますよっだ!」

*大 坂 「何を次元の低い議論しているんですか。もう少し建設的な話をしなさいよ!」

*Aさん 「でも,私たちに,いったい何ができるんですか。」

*大 坂 「簡単なことから始めればいいんだ。たとえば食べ残しを出さないとか,食用油は紙にしみ込ませて捨てるとか,やたらと車に乗らず自分の足で歩くとかね。」

*B 君 「なかなかキビシイですね!」

*大 坂 「これからは,環境問題に敏感な人ほどモテるんじゃないかな。」

*B 君 「よし,頑張るぞ!」

*Aさん 「もー,調子いいんだから。でも,きれいな海やきれいな空や山や川や,そんなすばらしい自然をずっと大切にしてゆきたいですね。」

*大 坂 「そのとおり。この『オクトパスズ・ガーデン』みたいな自然を,いつまでも守ってゆかなければならないね。」

OCTOPUS'S GARDEN  The Beatles 1969

オクトパスズ・ガーデン  ザ=ビートルズ 1969年

 この『オクトパスズ・ガーデン』は,解散直前のビートルズが最後にレコーディングした1969年発表の名アルバム,『アビー・ロード』の中の印象的な1曲。作詞・作曲者のリチャード=スターキーとは,ドラマーのリンゴ=スターの本名。ヴォーカルも彼自身。この当時彼自身に"環境問題"への興味関心があったかは不明であるが,さまざまな環境汚染が喧伝される今こそ,我々はこの平和で安全な"タコさんの庭"を守ってゆくため,努力を怠ってはならないのだ。

 会話の中にも出てきたが,現在「環境問題」は新しい局面を迎えている。

 かつては「環境問題」は大気や水質の汚染を中心とする「公害」の問題が中心であった。しかし,各方面の努力により,少なくとも先進国では公害問題は解消される方向にある。しかしそれに代わって,21世紀的な新たな環境問題が提示されてきた。

(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A2%83%E5%95%8F%E9%A1%8Cの分類による)

"地球環境問題"
 o地球温暖化
 o オゾンホール
 o 砂漠化
 o 森林破壊
 o 海洋汚染
 o 生物の多様性
 o 酸性雨
 o 異常気象
 o 生態系サービスの劣化・喪失

"地域の環境問題"
 o ゴミ問題、産業廃棄物
 o 大気汚染
 o 水質汚染
 o 土壌汚染
 o 騒音公害
 o 光害
 o 有害物質(ダイオキシンなど)
 o 塩害
 o 土壌流出

"国際的な環境問題"
 o 海洋汚染
 o 有害廃棄物の越境移動
 o モノカルチャー
 o 遺伝子汚染

これらの多くは「汚染」の問題ではなく「喪失」の問題である。特に化石燃料(石油・石炭)の大量使用による資源枯渇の問題と,排出される温室化ガス(二酸化炭素など)による地球温暖化の問題は高校生の目にも頻繁にふれるニュースである。クールビズだの,代替エネルギー開発だの,大人の世界もいろいろと模索を続けているが,中学生や高校生の皆さんにも,テレビやオーディオの電源をこまめに切ったり,学校でも教室移動の際には確実に照明を切ったりするなど,できることはいくらでもある。一人一人が若いうちから「地球市民」という自覚を持って,次世代に美しい地球を残すための行動をとって行きたいものだ。

次へ
ページトップへ戻る

メインメニュー

Copyright(C) 高機能HTMLテンプレート no.001 All Rights Reserved.