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「ロックで学ぶ現代社会」rock meets education

第3部 『国際社会と人類の課題』

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第3章 国際社会と人類の課題

*大 坂 「さて,いよいよこの『現代社会』の授業も終りが近づいてきました。」

*B 君 「えっ,これって"授業"だったんですか。(゜o゜)」

*大 坂 「・・・・。」

*Aさん 「先生!しっかりしてください!先生!」

*大 坂 「大丈夫です。ちゃんと生きています。ところで,最後のテーマは,『国際社会と人類の課題』というものなんだが,ここまで,ロック・ミュージックを通じてさまざまな社会的問題を考えてきた君たちだったら,もうこれから私がどんな話をしようとしているか分かるよね。」

*Aさん 「要するに"平和な社会を築こう"ということなんでしょう。大丈夫,よく分かっています。」

*B 君 「本当に分かっているの?」

*Aさん 「分かってるわよ。だって,戦争をしないようにするっていうことでしょう。常識よ。」

*大 坂 「なるほど"常識"か。じゃあAさん,今は"平和"なの?」

*Aさん 「とりあえず,そうじゃないんですか?だって,戦争はやってないし…。」

*B 君 「テロや,イラク情勢とか,いろいろあったじゃない?」

*Aさん 「それはそうだけど,もうそんなに大したことはないんでしょう?」

*B 君 「そうかなあ…。」

*大 坂 「今日はB君冴えてるね。前に年表をあげて示したけれど,現在でも続いている国際紛争は数多いし,はっきり言えば,私たちが今,この教室で授業をしている間にも地球のどこかでは肌の色の違い,目の色の違い,しゃべっている言葉の違い,信じている神様の違い,理想とする社会像の違いなどなどで,誰かが誰かを殺していることは忘れてはならないね。それに,最近では日本でもロシアとの"北方領土"問題だけでなく,韓国との間の"竹島"(韓国名"独島")問題のような領土問題も急浮上してきているし,北朝鮮による日本人拉致の問題もある。各地の民族紛争は後を絶たないし,日本は第2次世界大戦の"戦後処理"の問題に苦悩している。また…」

*Aさん 「分かりました!先生,もうやめてください!」

*B 君 「そうですよ,先生。Aさん,もう泣きそうじゃないですか!それってイジメですよ!」

*大 坂 「おお,悪い悪い。別にAさんを責めているわけじゃないんだ。ただ,日本の高校生の目には現在の世界は平和そのものに見えても,実際にはそうとばかりは言えないんだということを分かってもらいたかっただけなんだ。」

*B 君 「そりゃあそうですけど。さあ,Aさん,もう泣くのはやめて。」

*Aさん 「ありがとう…。」

*大 坂 「すまん,すまん。だけどB君,最近ずいぶんAさんに優しいねえ。」

*B 君 「うるさいですねえ,先生。そんなこというから女子高生に嫌われるんですよ。」

*大 坂 「誰が嫌われているんですか!とにかく,機嫌直して授業を続けましょう。B君,戦争はどうして起こるんですか?」

*B 君 「そんなこと簡単に言えるわけないじゃないですか。いろんな原因があるでしょう。」

*大 坂 「それはそうなんだが,一言で言うとね,こういうことじゃないかと思うんだ。」

 かつてアメリカでこんなコミックがはやったことがあるという。近未来において"惑星間大戦争"が起こり最後は対立する双方の惑星が滅びてしまうというストーリーだが,その戦争の原因は「"我々の惑星では,パンの表側にバターを塗るのに奴等はパンの裏側に塗るそうだ。きっと邪悪なやつらに違いない"という惑星と,"我々の惑星では,パンの裏側にバターを塗るのにやつらはパンの表側に塗るそうだ。きっと邪悪なやつらに違いない"という惑星との対立」であったという。荒唐無稽な話であるが,ここには無視できない真実が含まれている。というのは,おそらくは古来起こった戦争の多くは,結局は"自分たちと異なるものの抹殺"ということではなかったのか,と思うからだ。「自分たちは正しい,しかしやつらは間違っている。だからやつらを倒さねばならない」という理論は,ただ国家間の戦争や他民族の抑圧や他宗教の弾圧のような問題ばかりではなく,学校でのイジメにも結びつく理論である。この理論は非常に分かりやすいゆえに,おそらくは人間ひとりひとりの心の中に生まれながらに巣くっているものなのかもしれない。だからこそ,その心を取り去ることは非常に困難であろう。しかし,それを行うのが"教育"の使命であると私は考える。

 世界は今"国際化社会"を迎えたといわれる。特に世界有数の経済大国となった日本では,もはやかつてのように"島国"であることを物心ともに鎖国の理由とすることはできなくなっている。交通機関の発達は地球を驚くほど小さくし,インターネットなどの新情報網の成立により界中を瞬時にして結びつけることが可能となった。しかし,日本人は本当の意味で"国際化"を遂げているとは言い難い。渡航先の国や地域の風俗習慣や社会体制を知らずに海外旅行に出かけ現地でひんしゅくをかうなどということは序の口で,ただ外交レベルだけではなく民間レベルにおいても,非常に多くの問題が引き起こされているのである。そもそもクラスの中にイジメを温存している我々が,そんなに簡単に"世界を股にかけた"活躍が可能なのであろうか?

 ここまでロックの話をしてきたからには,最後もロックの言葉で締めくくることとしよう。

 本書でも何度も登場したザ=ビートルズは,1960年代のはじめ連続して大ヒット曲を飛ばし,世界的に超巨大な人気を獲得しつつあった。しかし,"おとな"たちの中には,彼らのことを「あんなのは音楽ではない騒音である」とか「髪が長くて不潔である」とか「不良の集団」とかいって忌み嫌い,排除する動きがあった。(現にそのしばらく後ではあるが,1966年の日本公演の際には日本精神の象徴である武道の殿堂の日本武道館をコンサートに使うということに対する反対が非常に強く,テレビで大論争が巻き起こったり,右翼の街頭宣伝車が連日大騒ぎしたりするという風景も見られた)しかし,当時そのことに関しての感想を求められたギタリストのジョージ=ハリスンは,その問いにただこう答えたのである。

 「僕たちを嫌いでもかまわない。でも,僕たちを否定しないでほしい」

おとなたちが自分たちを嫌うのは勝手である。別に頼んでまで好きになってもらおうとは思わない。民主主義には何かを"嫌う権利"も含まれるはずである。しかしながら今,自分たちの音楽が若者にウケにウケていて,これだけの巨大な人気を獲得していることは否定できない事実である。その"事実"から目を背けることはやめてほしい。彼はそう答えたのだ。そして,彼はその言葉の中で,知ってか知らずか"民主主義の基本ルール"を教えてくれたのである。

 「嫌いなもの,自分たちと違うものを排除する」−この思想が何度人類の悲劇と戦争を生んできたことか。歴史的な例を挙げれば,たとえば,百歩譲って,アドルフ=ヒトラーがユダヤ人を嫌いなことは彼の"自由"であったかもしれない。しかし,ユダヤ人を絶滅しようとしたことは明らかな"犯罪行為"であったといわざるをえない。教室でも同じことである。クラスメートの中に馬の合わない奴がいる。それは人間である以上,ある程度仕方が無いことかもしれない。しかし,だから彼をイジメていいのかということはまったく別問題である。理想は"嫌いな人間を作らずに誰とでも仲良くする"ということであろう。しかし,それは容易なことではない。だが,嫌いなものとも,自分たちと違うものとも共存すること−これは学びとることが可能であり,必要なことではないのか。私は,少なくともそう考える。

 結局,再び『ユネスコ憲章』の言葉を借りれば,

 「戦争は人の心の中でうまれるものであるから,人の心のなかに平和のとりでをきずかなければならない」

ということにつきる。戦争を引き起こすのは人間。しかし,最後にひとつ希望があるとするならば,それを終らせるのも人間なのである。

*B 君 「よく分かりました。今こそ,ぼくらの心が試されるときなんですね。」

*Aさん 「そうよ。がんばらなくちゃね,B君!」

*大 坂 「そう。それが分かってくれれば,私の授業は大成功だったて言うことになる。さあ,これで授業を終ります。気をつけて帰ってください。」

*B 君 「はい,分かりました。Aさん,一緒に帰ろ!」

*Aさん 「うん,あのねB君,おいしいケーキ屋さん見つけたの。ちょっと寄って帰らない。」

*B 君 「OK。じゃ,おごってやるよ。それじゃ,先生さよなら。」

*Aさん 「さよなら!さあ,B君,早く!」

*B 君 「おいおい,待ってくれよ!」

*大 坂 「おいおい…。あーあ,掃除サボって帰っちゃたよ。まったく…。でも,ということは,あいつら…いつのまに…。ハハハ!いいな若い者は!いや,青春,青春!」                                         

HAPPY XMAS(WAR IS OVER) Yoko Ono & John Lennon 1971

ハッピー・クリスマス(戦争は終った)  ジョン=レノン&ヨーコ=オノ 1971年

(注) 1/京子:

小野洋子と前夫トニー=コックスとのあいだの娘。当時コックスが連れ去り,行方不明であった。

2/ジュリアン:

ジョンと前妻シンシア=パウエルとのあいだの息子。ビートルズの名曲『ヘイ・ジュード』に歌われた"ジュード"とは,彼のこと。

3/"赤い人"とは,一般にはアメリカ原住民(いわゆる“アメリカ・インディアン”)を指す。

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