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「ロックで学ぶ現代社会」rock meets education

第2部 『現代の政治・経済とわたしたちの生活』

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第1章 税金と国民生活

*B 君 「さてAさん,そこで問題です。C君はスーパーへ行って,1個100円のキャンディーを10個買いました。C君はいくらお金を払えばいいでしょう?」

*Aさん 「あんた人をバカにしているの!1個100円のキャンディを10個でしょう。1000円に決まってるじゃないの!」

*B 君 「ブー,不正解です。」

*Aさん 「何言ってるのよ。あんた算数もできないの!」

*B 君 「残念でした。小学生でも分かる問題です。5パーセントの消費税がついて,合計1050円です。」

*Aさん 「何よ,それ!からかわないで!」

*大 坂 「これはAさん一本とられたようだね。ところで,もう授業が始まっているのが分かっている人?」

*B 君 「はーい!」

*大 坂 「それにしちゃノンビリ遊んでいるじゃないの!」

*B 君 「違いますよ,先生。僕は予習をしていたんです。」

*大 坂 「何が予習ですか?」

*B 君 「だって,今日は経済の授業でしょう。税金の話をするんじゃなかったんですか?」

*大 坂 「うまくごまかしたつもりだろうが,そうは問屋が卸さん。こらっ,逃げるな。」

*B 君 「いやー,体罰反対。」

*Aさん 「先生,早く授業してください。」

*大 坂 「はい…,ゴメンナサイ。さて,気をとり直して…,」

*B 君 「ところで先生,どうして税金なんか払わなくちゃいけないんですか?」

*大 坂 「Aさんは答えることができるかな?」

*Aさん 「だってそれは,道路を作ったり,橋を架けたりとか,学校を作ったりとかするんでしょう。」

*B 君 「社会福祉とかにも使われますね。」

*大 坂 「たまにはいいことを言うね。」

*Aさん 「でも,税金ってどうしてあんなに高いんですか?ウチの父なんかいつも文句言ってますよ。」

*大 坂 「Aさん,本当に税金って高いと思うかい?」

*Aさん 「それはそうでしょう。違うんですか。」

*大 坂 「それじゃあ,このグラフを見てごらん。」


租税負担率の国際比較 財務省資料 東京法令出版社『フォーラム現代社会2006』より
 単位% 日本は2005年度見通し,諸外国は2002年実績

*Aさん 「えー,何ですか!スウェーデンの人って,稼いだお金の半分もの税金を払っているんですか!」

*大 坂 「それだけじゃなくて,社会保障負担率も税金みたいなものだから,スウェーデン人は,1万円稼ぐたびに,7100円の税金を払っているということになるね。」

*B 君 「それじゃあ,2900円しか儲からないってこと?!」

*大 坂 「ご名算!すごいね。」

*B 君 「実は,子どものころからそろばんやってるんです。」

*Aさん 「そんな問題じゃないでしょう!」

*大坂・*B君 「はい。すみません。(――;)」

*B 君 「でも,僕なら,働く気をなくしちゃうと思うけどなぁ。」

*大 坂 「税金とか福祉とかに対する考えが,日本人とは全然違うんだろうね。」

*B 君 「とは言っても,日本人だって,1万円稼いで3600円も税金払っているんでしょう?結構すごいよ。いやー,今日は先生を尊敬するなあ。安い給料で,こんなに税金を払って,一揆も起こさずに授業なんかしているんだから。」

*大 坂 「安い給料で悪かったね。だけど,私はそんなにたくさん税金を払っていませんよ。<`ヘ´>」

*B 君 「えっ,先生,脱税してるんですか?」

*大 坂 「失礼な!私がそんなこと,するわけがないじゃないですか?信用できないんですか。」

*B君・*Aさん 「はい。」

*大 坂 「あっそう。みくびられたもんだね。ともかく,それじゃあ,この表を見てごらん。」

夫婦と子ども2人(内1人は16〜22歳)のサラリーマンの場合
 2004『わたしたちの生活と税』 東京法令出版社『フォーラム現代社会2006』より 単位:万円


給 与 額500700100020003000
課税所得金額11926350914392389
税額(万円)9.521.055.0283.7609.9
割 合 %1.93.05.514.220.3

*Aさん 「あれっ,税金って,みんな同じ割合だけ払うんじゃないんですねえ。」

*大 坂 「そうそう,これは『累進課税』制度といってね,社会的な不公平感が出ないように,たくさん稼ぐ人は,やっぱりたくさん税金を払うようになっているんだ。1989年からは10〜50%の5段階になっているよ。この表は,さまざまな"控除"が入っているんで,そのままの数字にはなっていないけれどね。」

*B 君 「ということは,7億円ぐらい稼いでいるヤンキースの松井秀喜選手なんかは…。」

*大 坂 「もちろん,アメリカでの収入だし,控除があるから単純には考えることができないけれど,ひょっとしたら3億円くらい税金を納めているかもしれないね。」

*B 君 「ひえー,勲章ものですね。」

*Aさん 「雲の上の人ですよね。」

*大 坂 「そうとばかりはいえないよ。歌手の宇多田ヒカルさんは,1999年に君たちと同じ16歳にして,納税額2億6564万円で歌手部門1位。全国一般ランキングでも89位にランクインしているんだ。」

*Aさん 「ということは…,私と同じ歳で7億円くらい稼いだってことですか??」

*B 君 「な,ななおくえん…。バタッ!」

*Aさん 「きゃー,B君,しっかりしてー!」

*大 坂 「これこれB君,気を確かに持ちなさい。」

*B 君 「はい,何とか…。…しかし,テレビに出る人はすごいですね。」

*大 坂 「テレビに出なくても,同じく歌手の倉木麻衣ちゃんは,まったくテレビに出ないのにもかかわらず2000年には年収2億2800万円で納税額8170万円だ。高額納税者番付歌手部門13位にランクインしたんだけど,このとき麻衣ちゃんも君たちと変わらない18歳だね。」

*B 君 「麻衣ちゃんなんてなれなれしいですよ。」

*大 坂 「まぁそう言うな。倉木麻衣ちゃんはとっても素敵なアーティストだからね。実は私麻衣ちゃんのファンクラブに入っているんだ。L.O.V.E LOVE!」

*Aさん 「…歳を考えてください…ったく。」

*大 坂 「オホン…。とりあえず授業に戻ろう。」

*Aさん 「外国ではどうなんですか?」

*大 坂 「いろんな例があるけれども,たとえばイギリスのように,高額所得者はとんでもない高い税率を課せられている国もある。」

*Aさん 「へー,そんなにすごいんですか?」

*大 坂 「ここに,イギリスの高額所得者の嘆きの歌があるよ。聞いてみるかい?」

*Aさん 「先生いったい何者ですか?よくそんな歌見つけましたね。」

TAXMAN  The Beatles  1966

タックスマン    ザ=ビートルズ 1966年

注1/ウイルソン氏Harold Wilson 1916〜95

 イギリスの政治家・首相(任1964〜70:74〜76)。『タックスマン』発表当時の,またビートルズにMBE勲章を与えたときの首相でもある。

 オックスフォード大学を卒業。同大学講師をへて第2次世界大戦後,下院議員となった(1945)。アトリー労働党内閣の商務相となったが(47),軍事予算の増大に反対して辞職(51)。のち労働党党首となり(63),翌年の総選挙に勝利して13年ぶりの労働党内閣を組閣した(64)。デフレ政策の強化・ポンド切り下げ・国防費削減・鉄鋼産業再国有化法案など,労働党の諸施策を実現した。70年,総選挙に敗れて下野したが,74年に政権に復帰,EC加盟(71,保守党が実現)の継続をめぐっては国民投票を実施した(75)。76年,60歳の誕生日に引退を表明,キャラハンに政権を引き継いだ。 注2/ヒース氏 Edward Richard George Heath 1916〜

 イギリスの政治家・首相(任1970〜74)。『タックスマン』発表当時の保守党党首。オックスフォード大学を卒業,公務員ののち保守党から下院に当選(1950)。労働相(59)・外相代理(60)・ヨーロッパ経済共同体(EEC)加盟交渉首席代表(61〜)などを歴任。保守党最初の公選党首となり,(65),70年の総選挙では予想を裏切って勝利を導き,首相に就任した(70)。念願のヨーロッパ共同体(EC:67年にEECから発展)加盟を果たしたが,炭坑労働者のストライキに対抗して議会を解散した結果,総選挙に敗れて辞任した(74)。75年には保守党党首の座もサッチャーに奪われた。貴族的色彩の濃い保守党の中で,庶民出身の経済・技術に通じた異色の政治家であった。音楽にも造形が深く,管弦楽団を指揮したこともある。  

山川出版社『世界史のための人名事典』より

 イギリスは現在に至るまで"階級社会"の国といわれる。貴族や大土地所有者などの"アッパー・アッパー・クラス"(上流階級)は別としても,医者・弁護士などの知的専門職業や高級ホワイトカラー(事務的サラリーマン)などの"ミドル・クラス"(中産階級)と"ワーキング・クラス"(労働者階級)の間には,通う学校,読む新聞,吸う煙草など,さまざまな分野において厳然とした区別があり,労働者階級の子弟が中産階級に"のしあがる"のは非常に困難なことであるといわれる。ビートルズの4人は,その極めてまれな一例であった。

 『タックスマン』は,レコーディング技術の飛躍的発展の中,電子楽器,テープの逆回し,オーバーダビング等の最先端技術を駆使して制作された実験的なアルバム『リヴォルヴァー』のオープニング・ナンバーである。ビートルズは大体において労働者階級の出身であるので,収入の90パーセントにものぼろうかという高額不労所得課税にはさぞかし驚いたであろうということは想像に難くない。そんなメンバーのひとりジョージ=ハリスンは,そのような徴税制度に対する究極の皮肉としてこの曲を作った。

(*注:しかし,彼らのうち純粋に労働者階級と呼べるのはリンゴ=スターのみであり,後の3人は比較的恵まれている。特にジョン=レノンは家庭環境こそ複雑だったが,実質的には"ミドルクラス"といってもよい。)

*B 君 「95パーセントじゃ,ビートルズじゃなくたって怒りますよ。」

*Aさん 「本当にね。イギリスは『揺りかごから墓場まで』と言われる世界有数の福祉国家だから,それを支えるための税金もやはり世界有数と言うわけなんですね。でも結局,日本の税金は諸外国に比べてそんなに安いというわけじゃないのでしょう?何とかならないものなんですか?」

*大 坂 「"福祉は必要だが税金を払うのはイヤ"という態度じゃあ一人前の社会人とは言えないけれどね。でもとにかく,日本でもサラリーマンと自営業者の間で課税の不公平感があるのは事実だし,1988年の消費税の導入にともなう税制改革はその不公平感を少しでも少なくするために行われたんだよ。消費税のような"間接税"は,職業や収入にかかわらずみんな同じように負担するのだからね。」

*B 君 「でもまあ,少々税金を払っってもいいから,年収10億円ぐらいのビッグな男になってみたいね。」

*Aさん 「そしたら,わたしをお嫁にもらってね。」

*B 君 「ああ,いいとも!」

*大 坂 「B君,君は単純なやつだね。Aさんは,そんなことはありっこないから,そう言っているだけなんだよ。」

*B 君 「オー・マイ・ガッ!」

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