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「ロックで学ぶ現代社会」rock meets education

第3部 『国際社会と人類の課題』

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第2章 戦争と若者

*B 君 「ヴェトナム戦争といっても,名前ぐらいしか聞いたことはなかったけれど,なんかこの歌聞くと,背筋がぞっとしますね。」

*Aさん 「それにしても,大戦が終わったあとも本当にたくさんの戦争があったんですね。悲しくなるわ。」

*B 君 「でも,僕たち高校生には何もできないし…。」

*大 坂 「簡単にあきらめちゃいけないよ。ヴェトナム戦争の終結に大きな力があったのは若者を中心とする広範な反戦運動だったし,やっぱり,まず戦場に送られるのは若者なんだから,黙っていちゃだめだよ。金も力もなくたって,ギター一本持って反戦を訴えることもできるじゃないか。」

*Aさん 「そんなことできるんですか?」

*大 坂 「できるさ。1960年代半ばころ,反戦や社会の矛盾を鋭くつくフォーク・ソングが一世を風靡したんだ。これは,抗議するという意味でプロテスト・ソングと呼ばれたんだが,その代表は何と言っても"フォークの神様"と呼ばれたボブ=ディランだね。彼の『風に吹かれて』を聴いて社会の矛盾に目覚め,自分もギターを持って権力への抗議や不正への抵抗を歌い始めた若者はものすごく多いはずだよ。」

BLOWIN' IN THE WIND   Bob Dylan 1962

風に吹かれて    ボブ=ディラン 1962年

*B 君 「何か哲学的ですね。」

*Aさん 「でも,ギター一本でこれだけ迫られると,確かに説得力がありますね。この人100人のオーケストラよりも大きく感じるわ。」

*大 坂 「なるほどね,うまいこと言うもんだ。」

*B 君 「この"反戦フォーク"はほかにもいっぱいあるんでしょう?」

*大 坂 「ああ,もちろん。」

*Aさん 「もっと聞かせてくださいよ。」

*大 坂 「それじゃあ,特別サービスでもう一曲だけね。」

SCARBOROUGH FAIR/CANTICLE    Simon & Garfunkel  1966

スカボロー・フェア/詠唱     サイモンとガーファンクル 1966年

*Aさん 「すてきなハーモニー。みんながこんな歌うたっていれば,戦争なんてなくなってしまうのにね。」

*B 君 「本当。僕も昔のギター引っ張り出してこようかな。」

*大 坂 「簡単なことではないかもしれないけれど,音楽にはそんな力があるかもしれないね。」

*Aさん 「でも,戦争をなくすることってできないのかなあ…。」

*大 坂 「イギリスの思想家トマス=ホッブス(1588〜1679)は,人間は原始時代には「万人の万人に対する闘争」状態にあったとし,人類はその誕生以来闘争を続けてきたと言っているけれども,確かにイジメとか見ていても,人間の心の中に巣くう"悪魔"は簡単には退治できないのかもしれないと感じる。だけどここにひとつのヒントがあるんだ。この『ユネスコ(UNESCO,国際連合教育科学文化機関)憲章』の一部を読んでみてください。」

 戦争は人の心の中でうまれるものであるから,人の心のなかに平和のとりでをきずかなければならない。

 相互の風習と生活を知らないことは,人類の歴史を通じて世界の諸人民のあいだに,疑惑と不信をおこした共通の原因であり,この疑惑と不信のために,諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。 ・平等・相互の尊重という民主主義の原理を否認し,これらの原理のかわりに,無知と偏見を通じて人間と人種の不平等という教義を広めることによって可能にされた戦争であった。

 文化のひろい普及と正義・自由・平和のための人類の教育とは,人間の尊厳に欠くこここに終わりを告げた恐るべき大戦争(注:第2次世界大戦のこと)は,人間の尊厳とのできないものであり,かつ,すべての国民が相互の援助および相互の関心の精神をもってはたさなければならない神聖な義務である。

*B 君 「"戦争は人の心の中でうまれるものであるから,人の心のなかに平和のとりでをきずかなければならない。"か…,確かにそのとおりですね。」

*大 坂 「そういえば,前のローマ教皇ヨハネ=パウロ2世が1981年に来日したときの演説でも,日本語で「戦争は人間の仕業です」とおっしゃっていたね。その意味では,アイルランドも,朝鮮半島も,ヴェトナムも,パレスティナも,すべて"人間の仕業"なんだね。」

*Aさん 「何とかならないもんなんですかねえ?人間って。」

*大 坂 「だから,やっぱり一番大切なことは"教育"ということなんだと思う。ユネスコ憲章でも『文化のひろい普及と正義・自由・平和のための人類の教育とは,人間の尊厳に欠くことのできないものであり,かつ,すべての国民が相互の援助および相互の関心の精神をもってはたさなければならない神聖な義務である』って言っているように,教育こそ戦争をなくする最後の手段だと信じて,この授業をやっているんだよ。」

*Aさん 「先生,後光が差しています。」

*B 君 「ハゲかけているんじゃないの?」

*大 坂 「君のようなやつが戦争を起こすんですよ。まったく…(^_^;)。ともあれ,"戦争と平和"問題の最後にこの曲を聴いて締めくくることとしましょう。ジョン=レノンのこの曲の主張は極めて簡単です。それは,ただ一言,"平和にもチャンスを与えてやろう"−ただそれだけなんです。」

GIVE PEACE A CHANCE    John Lennon 1969

平和を我らに     ジョン=レノン&プラスティック=オノ=バンド 1969年

注:1〜4とも,調子の良い韻を踏んだ言葉を次々並べているだけで,それぞれの言葉に特に意味はないが,あえて訳出すれば以下のようになる。

注1/

* Bagism:ジョンとヨーコの平和運動のこと。袋に入ってインタビューなどに答え,平和を訴えた。

* Shagism :意味不明

* Dragism :麻薬主義?

* Madism:狂気主義?

* Ragism:ボロ主義

* Tagism:意味不明

* Thisism :これ主義 

* Thatism :あれ主義

* Ismism:です主義

注2/

* ministers :大臣(複数形)

* sinister(s) :形容詞−邪悪な・左の

* banisters :階段の手すり

* canisters :缶・聖杯(複数形) 

* bishops :僧正(複数形)

* fishops :意味なし 

* rabbis:ユダヤ教の律法博士(複数形)

* popeyes :びっくりして真ん丸した目

注3/

* revolution:革命

* evolution :進化

* masturbation:自慰

* flagellation:鞭打ち

* regulation:調節・規則

* integration :完成・統合

* meditation:瞑想

* United Nations:国際連合

* congratulations :おめでとう

注4/

* John and Yoko :ジョン=レノンとヨーコ=オノ,以下,彼らの知り合い・影響を受けた人物やこの曲のレコーディングのために1969年6月1日,カナダ,モントリオールのクィーン・エリザベス・ホテルの一室に集合した人たちの名前が歌われている。

* Timmy Leary :レコーディングに3加した,LSD開放論者ティモシー=レアリー博士

* Rosemary:女性の名

* Tommy Smothers:このレコーディングでJohnと一緒にギターを弾いている人物。後年アメリカに渡りジョンがヨーコと別居中のときこのmothers Brothersのギグをハリー=ニルソンとやじって店から追い出されたというエピソードがある。

* Bobby Dylan :ボブ=ディラン

* Tommy Cooper:不明

* Derek Talor :ビートルズの会社,アップル社の広報担当官

* Norman Mailer :ノーマン=メイラー,作家

* Alan Ginsberg :アラン=ギンズバーグ,作家

* Hare Krishna :ヒンドゥー教のクリシュナ神をたたえる言葉

 作詞・作曲ジョン=レノン&ポール=マッカートニーとなっているが,これはビートルズのデビュー前に,この2人が「どちらか一方が作った曲でも2人の共作名義にする」という取り決めを結んでいたせいであり,実際にはジョン単独の曲。まだビートルズ解散以前の曲であるが,実質的なジョンのソロ・デビュー作品。1969年の結婚後,世界各国を巡り報道陣を招待してベッドの上から平和をアピールする"ベッド・イン"の途上で作られた反戦歌である。世界中では,いろいろな人が,いろいろなところ で,いろいろなことを,勝手気ままにしゃべっているが,

「でも 結局ぼくらが言いたいことは
 『平和にも チャンスを与えてやろう』
 ただ それだけ」

という,非常にシンプルな,平和へのメッセージ・ソングである。

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